社員が勝手に地方に移住?!リモートワーク環境で増えた人事のお悩み
- 寺島戦略社会保険労務士事務所
- 2025年7月14日
- 読了時間: 5分
コロナ禍以降、リモートワークが就労形態の一つとしてある程度定着したような印象があります。
完全出社に戻す企業、「一部出社、一部リモート」のハイブリッド型、フルリモートのまま と各社それぞれリモートの方針は異なりますが、特にハイブリッド型で週1出社程度といった企業や、完全フルリモートの企業において
(本社が東京都心にある企業で)「社員がすでに実は沖縄に移住していた」「『実家のある石川県に移住したいが可能か?』という質問が人事にきて困っている・・・」
といったご相談は、ちらほら当社でもお受けすることが多いです。

一部出社の企業としては、「本当に出社日に来られるの?」という不安もあるでしょうし、完全フルリモートの企業でも、とはいえあまりに本社から遠い場所に居住される場合、「本当にそれって認めていいんだっけ?」というような懸念はあるのではないでしょうか。
憲法に定める居住の自由とは
いきなり憲法の話になるのですが、日本国憲法では第22条で
第22条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
2 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
という権利が規定されています。つまり、「居住・移転の自由」は日本国民として当然に認められた権利であり、
会社が従業員に「必ずここ(例えば首都圏近郊)に住みなさい!」といった制限を加えることはできないと考えられています。
日本国憲法ですから、当然昔からこのような憲法の定めはありましたが、ついここ数年までリモートワークが前提の世界ではなかったため、この憲法の条文はあまり注目はされてきませんでした。
しかしリモートワークが多くなったコロナ禍以降、居住地については皆さん広く選択肢を持つようになっており、この憲法条文が突如注目されるようになってきました。
とはいえ雇用契約に伴い労務提供義務がある
しかし一方で、企業は雇用契約を締結して賃金を支払う以上、従業員には労務提供の義務があります。また雇用契約に伴い、会社は従業員に対して業務命令権もあるわけです。
そのため「地域限定社員のように、フルリモートを会社が個別契約で認めており出社を要しない」といった特約がない限り、オフラインで業務遂行の必要性があれば、会社としてそのための出社を命令する権利はあるわけです。
そのため、たとえ沖縄であろうが石川県であろうが北海道であろうが、企業が従業員に東京本社への出社を命じた場合にきちんと出社が出来ている状態なのであれば、労務提供義務は果たされており、労働に支障が生じていないわけですので、特段住む場所を規制することは難しいと考えられます。
実務的な課題
極端な例ですが、従業員がホンダジェットのようなプライベートジェット的なものをお持ちで、いつ何時急に出社命令があっても「問題なく出社できる」場合で、実際に支障が生じないのであれば、事実上日本全国どこに住もうが問題ないのかもしれません。
しかし現実そうした極端な話はなく、だいたいが公共交通機関等での出勤を行うわけですので、現実的に当日出社命令を出しても、地方の場合は所定労働時間に間に合わないということは多いと思います。
昨今の採用難もあり、従業員の地方移住可を打ち出す企業も大手企業でも多いようですが、とはいえ当社の知る限り
「営業日前々日(もっと厳しければ前日)までに、指示があった場合に9時半までに本社に出社できること」
のように一定のルールを要件化して認めるケースが多いようです。
地方移住した社員が出社命令に応じない場合は?
仮に「営業日前々日までに、指示があった場合に9時半までに本社に出社できること」を前提に地方移住を許可した従業員がなんだかんだ理由をつけて出社命令に応じない・・・といったことが発生した場合、人事労務としてどういう手段がとりえるでしょうか。
これは労務提供義務や会社の業務命令に背いているということになりますので、1回目は口頭指導としつつ2回目からは懲戒の一歩手前の「指導書の発行」などはプロセスとして3回目からは軽微な懲戒に進むというのは現実的にありえます。
それでも改善されない場合には、普通解雇等も検討するところもあるかもしれませんが、労務実務の現実的には退職勧奨等に進むところは多いだろうという印象です。
また業務命令に背いていることから業務遂行に支障をきたしているわけですので、人事評価に伴う降給等も対応措置としてはありえるところです。
トラブル防止のために
従業員とのトラブル防止のためには、まずは会社として認めうる基準を設定することです。
上述のように「営業日前々日(もっと厳しければ前日)までに、指示があった場合に9時半までに本社に出社できること」というところや、リモートワークを認める頻度等は重要です。
また、会社としては、フルリモート方針を撤回する、または出社日を増やすといった決定をすることも将来的にはその可能性を排除することはできないと考えます。そうした場合のために、あらかじめ「出社日を増加する、又は完全出社を命じる可能性」への合意をとっておくことも重要と考えます。
ただ今後こうした地方移住者を中心に、企業がリモートワーク日数を増やしたり、廃止した場合、「人事権濫用」といった訴えが係争となるケースも想定でき、
転勤命令と人事権濫用の関係のようにリモートワークの解除が人事権濫用と判断される可能性はありますので今後もリモートワーク関連の判例は注目したいところです。
企業としてはこうした人事権濫用法理に照らして、あまりに不合理(つまり、リモートワークで十分可能な業務に出社命令を課す等、あまりに理由がないようなもの)なリモートワーク解除等は避けるべきですし、仮に出社命令を増やすといったことや廃止する場合でも、そのプロセスには真摯な説明や、実際の出社増加やリモートワーク解除等までに、本人が十分に準備ができるような時間的猶予を設ける等、できる限り紳士的な対応や配慮はあるべきと考えます。
