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スタートアップのよくあるステージ別労務のお悩みとは?

更新日:2025年7月8日

スタートアップ・ベンチャーと一口にいってもそのビジネスフェーズによって、抱えている労務問題は全く異なります。


社員・役員数が10名未満の創業期のスタートアップと資金調達を行い社員数が急激に伸び、50名程度になった成長期のスタートアップ、また社員が100名を超えいよいよIPOのための準備期に入るスタートアップでは、その組織の態様はもちろん、労務問題の質・量ともに異なるのは当然のことです。


今回は、それぞれのステージ別のよくあるお悩みとその解決策について解説していきたいと思います。


1. 創業期(シードステージ)のスタートアップ

創業期のスタートアップは社員数も10名未満程度と人数も小規模で、社員も創業者の昔の同僚、友人、その紹介者などで構成されていることが多いため、創業者の理念や目指すべき目標などが適切に共有され、共通の目標に向かう「同志型・理念共有型」の組織であることが多くなっています。そのため労使トラブルなどの問題が(潜在的にあったとしても)顕在化しにくく表立った労務上の問題は、今後のアーリーステージやIPO準備期と比べても一般的に少ないです。

とはいえ、創業者や社員の紹介だけで社内に必要な人材を集めることは限界があるため知人等ではない外部の人材を雇用するタイミングがやっています。


この時に初めて「労働条件通知書をください」「うちの36協定って何時間ですか?」「社会保険加入できますよね」と言われ、


「え、労働条件通知書ってなに?社会保険って強制的に加入しないといけないの?これまではこんなこと誰も言わなかったのにどうしよう!」というような具合で、これまでの「同志型・理念共有型」の組織の中ではあまり深く考えることのなかった労働基準法や社会保険のルールなどに目を向けなければならなくなります。


創業期のベンチャー企業からのご相談は、「人数が少なくても、労働基準法などで守らなければならないルールってなんですか?」というざっくりとしたものが多いです。


下記にスタートアップでも1名以上人を雇ったら守るべきルールをまとめましたのでご参照ください。




(社員数10名未満の創業期のスタートアップ・ベンチャー企業でも最低限整備すべきもの)

整備すべきルール

対象従業員数

根拠条文

詳細

1

36協定を締結・労働基準監督署に提出する

1名~

労働基準法36条

時間外労働をさせる労働者がいる場合、社員が1名しかいなかったとしても締結・労働基準監督署への提出は義務です!

36協定を締結・届出していない場合時間外労働をさせると、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。

 

2

必要な労使協定の締結

1名~

労働基準法18条、24条、32条、34条等

36協定以外にもフレックスタイムや専門業務型裁量労働制などの該当制度を入れる場合には必要な協定があるほか、忘れがちですが、休憩時間を各自バラバラに付与する場合には、

「休憩時間の一斉付与の例外の労使協定」が必要です。

 

3

労働条件通知書の策定・労働者へ通知

1名~

労働基準法15条

パートタイム労働法6条

労働者に対して労働条件を明示することは義務です!

必ず明示しなければならないことは下記のとおりです。

(※賞与や休職に関する定めをする場合等は、さらに明示する必要あり。)

①労働契約の期間、契約更新の上限・有無

②有期労働契約の場合は更新する基準

③就業の場所及び従事する業務(それぞれ変更の範囲も)

④始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇等

⑤賃金・昇給に関する事項

⑥退職に関する事項

(短時間労働者を雇う場合)

パートタイム労働法において、パートタイム労働者を雇い入れたときは、「昇給の有無」、 「退職手当の有無」、「賞与の有無」、「相談窓口」の4つの事項を文書の交付などにより明示することが義務付けられています。

 

 

4

必要な報告・書類の作成

1名~

労働基準法第104条の2、労基則57、労基則53、労基則55

労働者を雇い、労働基準法が適用されることになると、労働基準監督署に適用事業場報告の提出が必要です。また、労働者名簿、賃金台帳の作成も作成が必要です。

 

5

労働保険(雇用保険・労災)への加入

1名~※農林水産業等を除く

労働者災害補償保険法第3条、雇用保険法第5条、

農林水産業などを除き、労働者を1名でも雇用している場合労働保険への加入が義務です。新規適用届などの書類提出が必要です。

 

6

社会保険(健康保険・厚生年金)への加入

法人:1名~

 

健康保険法第3条、厚生年金保険法第6条

 

法人の場合は労働者を1名でも雇用している場合社会保険への加入が義務です。新規適用届などの書類提出が必要です。

 


2. 成長期(アーリーステージ)のスタートアップ

資金調達などによって急速に社員数が伸び、50名程度になった成長期(アーリーステージ)のベンチャー企業はこれまで顕在化してこなかった労務問題が一気に明るみにでたり、

労働基準監督署が調査に来たりと企業にとってはややネガティブな労務問題が発生する一方、育児休業を取る社員が出てきたため柔軟な労働環境を整備したい、フレックスタイムや裁量労働制、テレワークを導入したいといったポジティブな人事労務制度設計を検討する時期でもあります。


労務の担当者にとってはかなり忙しい局面を迎えるフェーズですが、50名程度の組織の場合バックオフィス担当者1名が総務・経理・労務を全て担当しているということも珍しくなく、いよいよ本格的に社会保険労務士の顧問を検討するといった企業が多い印象を受けます。


また50人以上となると労働安全衛生法上の義務の履行が多く必要となる時期でもあります。

(従業員50人以上となる場合の必要タスク)

1. 産業医の選任・労基署届出

※産業医さんは月1回職場巡視義務があります。


2. 安全管理者・衛生管理者の選任・労基署届出

※衛生管理者は週1回職場巡視義務があります。

 

3. 安全・衛生委員会の設置、月1回の実施&議事録策定

<前提>

・労働安全衛生法上、一定の規模に該当する事業場では、下表のとおり安全委員会、衛生委員会(又は両委員会を統合した安全衛生委員会)を設置する必要がある。

 

 

業種

常時使用する労働者の数

安全委員会

衛生委員会

1

林業、鉱業、建設業、製造業の一部(木材・木製品製造業、化学工業、鉄鋼業、金属製品製造業、輸送用機械器具製造業)、運送業の一部(道路貨物運送業、港湾運送業)、自動車整備業、機械修理業、清掃業

50人以上

必要

必要

2

製造業(1以外)運送業(1以外)電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器等小売業、 燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業

100人以上

必要

必要

50人以上100人未満

義務なし

必要



3

1と2以外の業種

50人以上

義務なし

必要


・安全委員会・衛生委員会の構成員は下記の構成となっている必要がある。

安全委員会

衛生委員会

1 総括安全衛生管理者又は事業の実施を統括管理する者若しくはこれに準ずる者(1名)2 安全管理者※3 安全に関し経験を有する労働者※

1 総括安全衛生管理者又は事業の実施を統括管理する者若しくはこれに準ずる者(1名)2 衛生管理者※3 産業医※4 衛生に関し経験を有する労働者※

※1以外の委員については、事業者が指名することとされている。

※1以外の委員の半数については、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合(過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者)の推薦に基づき指名しなければならない。

・衛生委員会は開催の都度議事録を策定し、従業員に周知を行う必要がある。


4. 定期健康診断結果報告書の届出


5. ストレスチェックの実施・報告書の届出


6. 休養室の設置(体調不良者が横になれるスペースが会社にあればそれを休養室としてOK)




3. IPO準備期のスタートアップ

いよいよIPOのための準備期に入るというベンチャー企業では、もっぱら労務コンプライアンス体制構築に対しての質問が多くなります。

IPOにあたっては、主幹事証券会社による引受審査と証券取引所による上場審査において「上場企業として適切な経営体制が整っているか」が審査されますが、なかでも労務コンプライアンスは昨今頻繁に過労死の問題やハラスメントの問題がニュースでも取り上げられる通り、重要視されています。

労務コンプライアンスは「企業の中で働く従業員」の事柄であり、潜在的な労務問題や、未払い残業代等の発覚はIPOに重大な影響を与えてしまうため、IPO準備期に入ると人事の方は、「うちの労務コンプライアンスは大丈夫だろうか・・・」と不安になってしまうのです。

よくある質問としては、

「裁量労働制を導入しているが、みなし時間を超えた分の割増賃金を払っていないことが判明した」

「36協定の特別条項を超えて労働している従業員がいる。」

など残業代未払いや長時間労働への懸念に関連したものが多くなっています。


特に裁量労働制を導入している企業においては、「裁量労働制なら割増賃金が発生しない」と誤った認識を持っているところも多く、未払い残業代が発生している可能性が高いです。

裁量労働制は深夜・休日には適用されないため、深夜割増手当、休日割増手当がそれぞれ必要です。また、みなし時間を10時間と設定しているにもかかわらず、2時間分の割増賃金を支給していなかったという基本的な部分ができていない企業も見受けられます。このようなことが発生した場合には、裁量労働制のみなし時間を超えた時間について割増賃金を計算し、支払っていない分を過去3年分に溯って支給する必要があります。また、IPOの審査においては、未払残業代を精算する場合は、従業員との間で未払い残業代支給によってそれ以外に債権債務がない旨を合意書を締結しておくのが通例です。


また、36協定違反についても特別条項を超えて労働している従業員がいる場合、特別条項自体の労働時間を延長するか、長時間労働の社員の労働時間を削減するような対策が早急に必要です。IPO準備期には労働基準法違反が発生することはできる限り避ける必要があります。



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