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違法なのか正直なところはっきりしない「年次有給休暇の前借」について

更新日:7月15日

実務の現場では、従業員に年次有給休暇の前借を依頼されて、会社としても認めてあげたいが・・・というご相談を受けることがあります。


さらに、「たとえば入社から6か月後に10日付与の予定の方に対し、入社2か月目に3日有給休暇を前借りさせてあげたとして、当初の入社から6か月後には「10日ー3日=7日」を付与するのでいいですよね? 」というところもご質問として多いところです。


みなさんも人事労務歴が長い方はこの年次有給休暇の前借って結局いいんだっけ?とお悩みの方も多いのではないでしょうか。


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  1. 年次有給休暇の前借制度の前提



この年次有給休暇の前借についてですが、前借制度等は法令・施行規則・通達等いずれにも規定のない制度です。

一方で、似た概念としては「年次有給休暇の分割付与」制度があります。


これは入社日に5日、6か月後に追加で5日付与というように、本来6か月後に10日の付与で労働基準法上は許されているものを前倒しで分割して付与する方法になります。


なおこの年次有給休暇の分割付与も法律によって定められた制度ではなく、行政通達(平成6年1月4日基発1号)を根拠として、国によっても、一定程度想定され、かつ許容されている制度という立て付けになります。


行政通達(平成6年1月4日基発1号)

(3) 年次有給休暇の斉一的取扱い

(1)の年次有給休暇について法律どおり付与すると年次有給休暇の基準日が複数となる等から、その斉一的取扱い(原則として全労働者につき一律の基準日を定めて年次有給休暇を与える取扱いをいう。)や分割付与((A)初年度において法定の年次有給休暇の付与日数を一括して与えるのではなく、その日数の一部を法定の基準日以前に付与することをいう。)が問題となるが、以下の要件に該当する場合には、そのような取扱いをすることも差し支えないものであること。

イ 斉一的取扱いや分割付与により法定の基準日以前に付与する場合の年次有給休暇の付与要件である八割出勤の算定は、短縮された期間は全期間出勤したものとみなすものであること。

ロ 次年度以降の年次有給休暇の付与日についても、初年度の付与日を法定の基準日から繰り上げた期間と同じ又はそれ以上の期間、法定の基準日より繰り上げること。(例えば、斉一的取扱いとして、四月一日入社した者に入社時に一〇日、一年後である翌年の四月一日に一一日付与とする場合、また、(B)分割付与として、四月一日入社した者に入社時に五日、法定の基準日である六箇月後の一〇月一日に五日付与し、次年度の基準日は本来翌年一〇月一日であるが、初年度に一〇日のうち五日分について六箇月繰り上げたことから同様に六箇月繰り上げ、四月一日に一一日付与する場合などが考えられること。)


この分割付与も上記の行政通達に照らすと


①(A)入社初年度の付与

②(B)分割により付与した日を基準日として初回付与された日から1年以内に付与すること


が条件として想定されています。


この行政通達のとおり、そもそも年次有給休暇の一部を、会社が制度として5日ずつ、分割のように決めることが一定の条件下(つまり上の(A)と(B))で認められていることを考えると、日数等を従業員希望で調整できる年次有給休暇の前借制度は分割付与同様(むしろ分割付与よりも)従業員が柔軟に取得できる制度とも考えられ、制度趣旨に照らしても労働者にとって不利な制度とは考えにくいような印象です。


  1. 前借り付与した日数は、次の付与の際に差し引けない説


一方で、基本的な考え方として、「年次有給休暇は基準日において、「法定の日数を付与する必要がある」と考えられ、前借りした日数を差し引くことにより、これを下回る日数を付与することは、結局前借した日数+差し引いて付与した日数が法定の日数に達しているとしても原則認められない」とする説があります。


この説は労働基準法39条で「使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。」というところを根拠にしているようです。


しかしこの場合、分割付与も入社日に5日付与した場合、6か月後にはさらに10日付与しないとならないロジックになり、国が上記の通達で分割付与で想定している想定とも異なってくるため、やや論理が破綻しているように見えます。

しかし国からなんらかの通達も、現時点ではでていないため見解は定かではありません。


  1. 結論 実務的な落としどころ


どうしても年次有給休暇の前借を入れる場合、上記の分割付与の行政通達に則り、(A)入社初年度の付与に限ること②(B)分割により付与した日を基準日として初回付与された日から1年以内に付与することが条件としては想定されておりこの範囲内で行うことを守っておくほうが良いとお伝えしています。


しかし、なかなか面倒(特に基準日が繰り上がる点)ですので、もはや下手に前借制度を入れるよりは、年次有給休暇が付与される前に使えるシックリーブ(特別休暇)を制度としていれる等のほうが実務的にはシンプルになる印象です。


人事労務としてはできる限り従業員に寄り添いたいというところもあるかもしれませんが、なかなか前借制度もこのように知れば知るほど深いところがあり、安易な前借制度の導入は避けたほうが無難という印象です。


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